勘吉
こんな雨の日には
勘九郎池の
河童の勘吉が
泣いているはずだ
クゥエーン、クァクァクァ
僕は彼の言い分も
良く分かるのだ
勘九郎池は
周りが山に囲まれた
小さな池で
彼の爺さんの時までは
河童も川を伝って
麓の村まで
よくお酒を買いに行っていたそうな
体つきは小さいが
よく小回りがきき
力が強いのが
彼らの自慢だった
ところが父さんの頃になって
人間たちが
やたらに乱暴になり
おちおち村まで出て行けなくなった
そうして彼らは
山奥の小さな
勘九郎池に
ひっそりと住み着くことになる
クゥエーン、クァクァクァ
平和に暮らしていた
彼らだったが
最近どうも体の調子が良くない
頭の皿がヒリヒリと痛むのだ
河童の中には皿がひび割れして
水が溜められなくなり
皮膚もカサカサになって
死んでいく者もでたそうな
クゥエーン、クァクァクァ
「近年酸性雨というものが
降ってくるらしい」
勘九郎池の
長老河童が
皆を集めて言うたそうな
「ほんに住みにくう
なったもんじゃ」
クゥエーン、クゥエーン、クァクァクァ
こんな雨の日には
勘九郎池の
河童の勘吉が
泣いているはずだ
僕は彼らの言い分も
良く分かるのだ