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詩集5


 

   
           宮本 泰子

写真を見る度に
自分の顔が嫌いだと思う
なぜ美貌に産んでくれなかったのと
両親を恨む
もし私が女の子を産んでいたら
同じ事を言われたかも知れない

目 鼻 口の一つ一つは
それ程おかしくないのに
配置が悪いのか 構造が悪いのか
姉妹の中で一番不細工な娘と言われた
それ以来ずっとコンプレックスを
持ってきた

個性が顔に出ると言う
きれいな心でいれば目が澄んでくる
優しい気持ちでいれば顔が穏やかになる
これからは笑顔でいよう


 

   
           宮本 泰子

淀んだ空から
切れぎれの雨が烈しく落ちてくる

道路にぶつかって
ピアノを叩く指先の様に
踊り跳ねて
雨のコンサートが始まった

楽しいコンサート会場を
車が暴走し蹴散らして行く
雨達の悲鳴が聞こえた

一瞬飛び散った雨は
集団で流されて行く
会場には新しい雨が踊る
じっと見つめている二つの瞳も
気にしないで踊り狂う


 

   
           宮本 泰子

竹が生えていた処が道路になる
機械で根こそぎ掘り返されて
アスファルトを敷き詰められ
少しだけ花壇が作られた

取り残された地下茎は
真っ暗な地中をひたすら這って
出口を探す
あれから三年
僅かな灯りを頼りに
地上に芽を出した

つつじの植えられた花壇に
遠慮がちに葉を茂らせる竹
突然の異端児の出現を
つつじは受け入れるだろうか
共存出来ると良いけれど


 

   影踏み
           森 公宏

「ほら踏んだ!」

天気の良い日には
わあわあ言いながら
影を踏みあった

子供の頃
幼心にも
影を踏まれることに
恐怖にも似た気持ちを
持っていた

「でもなぜ?」

影なんて踏まれても
何の痛みも感じないのにさ

「それはね。」

静かに話を聞いていたじいさんは
口をとんがらせた子供達に
諭すように言うのだった

「昔は人も
ながーいしっぽを
持っていたからだよ。」


 

   輪抜け
           森 公宏

もう何年か前
今日は僕が
君を海に誘った日

六月三十日
わぬけさま
例に漏れず今日も雨

いつものように
君は居ないから
今年は僕は台所で
とうきびを一人でかじっている
木の実をかじるリスのように
丸く まあるく

「友情も良いけど恋愛もいいよね」

初々しかった僕らの恋も
一年ごとに年をとる

六月の終わり
ワールドカップの終わり
じゃあ僕らの恋は?


 

   不思議な虫
           森 公宏

いつの頃からか
蛍光灯のカバーを通して
三つ又の尻尾と
二本の触覚を持った虫が
住み着いている

最初は
(二、三日も経てば動かなくなるだろう。)
と高を括っていた

でも
もう一週間以上にはなるのに
相変わらずたくさんの足で
動き回っているのが見えるのだ

(昆虫にしては足が多すぎる…)

明かりに集まる昆虫どもを餌にしているのか
ヤツがカバーの中に入ってからは
黒い小さな点々がたくさん
真ん中の方に溜まってきた

(カバー内で糞を撒き散らして居やがる…)

いつかヤツが成虫になることに
僕は少なからずの恐怖を抱いている